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【アイハウス・レクチャー】
記憶と忘却~日本―フィリピンの関係から


  • ※本講演は終了いたしました。講演のレポートをお読みいただけます。(ページ下)
    • 講師: アンベス・R・オカンポ(アテネオ・デ・マニラ大学准教授)
    • モデレーター: 藤原 帰一(東京大学教授)
    • 日時: 2017年10月17日(火) 7:00~8:30pm (開場: 6:30 pm)
    • 会場: 国際文化会館 講堂
    • 用語: 英語(通訳なし)
    • 会費: 1,000円(学生:500円、国際文化会館会員:無料) (要予約:定員100名)
    歴史認識問題がしばしば国家間の関係に影を落とす中、フィリピンと日本は戦争の記憶を経て、今日安定した友好関係を築いています。毎年「日比友好の日」には、戦後の国交正常化が祝われます。この記念日は重要ですが、一方で、はるか16世紀にまでさかのぼる両国の長い歴史を覆い隠しています。史実を巡りさまざまな主張が繰り広げられる中で、人々は何を記憶し、何を忘れようとするのか。それについて考えるとき「歴史の利用と濫用」が見えてくる、とオカンポ氏は言います。講演では、フィリピンの歴史認識において日本や日本人がどう捉えられ、それが今日の友好関係にどう関係しているのかを検証します。
    アンベス・R・オカンポ(アテネオ・デ・マニラ大学准教授)
    写真:アンベス・オカンポ
    フィリピンを代表するパブリック・ヒストリアン。主に19世紀末のフィリピンを対象に、芸術、文化、建国にかかわった人物などを研究している。国家文化芸術委員会(2005~07年)や国家歴史委員会(2002~11年)の会長を歴任。これまで20冊以上の著書を出版し、2016年福岡アジア文化賞学術研究賞ほか多数受賞。国内で広く購読されている日刊紙「フィリピン・デイリー・インクワイアラー」のコラムニストとしても知名度が高く、フェイスブックのファンページも持つ。国際文化会館が国際交流基金との共催で実施する「アジア・リーダーシップ・フェロー・プログラム」(ALFP)の2014年度フェロー。
    (ALFPウェブサイト:http://alfpnetwork.net/
    藤原 帰一(東京大学教授)
    写真:藤原帰一
    東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は東南アジア政治、国際政治。フィリピン大学アジアセンター客員教授、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際研究院客員教授、ブリストル大学政治学部客員教授、ウッドロー・ウィルソン国際学術センター研究員などを経て、現職。主な著書に『戦争を記憶する』(講談社、2001年)、『平和のリアリズム』(第26回石橋湛山賞<2005年度>受賞、岩波書店、2004年)、『国際政治』(放送大学教育振興会、2007年)、『アメリカの影のもとで―日本とフィリピン』(共編著、法政大学出版局、2011年)など。

    プログラム・レポート

    フィリピンを代表するパブリック・ヒストリアンであり、2016年に福岡アジア文化賞学術研究賞 を受けたアンベス・R・オカンポ 氏が、日比における歴史表象の違いを比較し、両国の人々が何を記憶し、何を忘れているか、またその背景について詳説した。

    ◆日本軍による占領時代の記憶

    まずオカンポ氏は、日本軍による占領時代についてフィリピンの人々が何を記憶し、何を忘れているかに言及し、一例として「日比友好の日」を挙げた。「フィリピン・アメリカ友好記念日」には米大使館前で抗議活動などが行われるのに比べ、「日比友好の日」にはそうした光景は見られない。そして、当初この記念日が、キリシタン大名・高山右近(うこん) がマニラで殉教した日にちなんで2月3日に設定されていたことや、くしくもその日がマニラで日本軍による市民の大虐殺が行われた日だったために、のちに現在の7月23日に変更されたことを知る人はほとんどいないと説明した。ちなみに7月23日は両国間で平和条約および賠償協定が発効された日である。

    オカンポ氏によると、歴史は幾つもの記憶の層からできており、同じ出来事であっても、世代や立場によって何をどう記憶するかはさまざまである。特攻隊誕生の地マバラカットに建てられ物議を醸した特攻隊員の像は、一部の人にとっては単に史実を伝えるものに過ぎないが、戦争の悲惨な記憶を抱える住民にとっては別の意味を持っている。また、オカンポ氏自身が長崎原爆資料館を訪れた際、原爆の恐ろしさにショックを受け、二度とこうしたことが起きてはならないと感じると同時に、東南アジアでの日本軍の行いに関する展示があまりに少ないと感じた経験に触れ、「資料館のような場所にも記憶されていることと忘れられていることがある」との見解を述べた。

    ◆過去に囚われずに前に進む

    過去から自分を解放し、前に進んだ人物としては、エルピディオ・キリノ 元比大統領を紹介。彼は妻子をはじめとする家族を日本軍に虐殺されたにもかかわらず、「私は私の子供や、国民がやがてはわが国の恒久の利益の友となるかもしれない国民に、私から憎悪をうけつがめしないこと(受け継がないこと)を欲する」 として、1953年に死刑囚を含む100人以上の日本人戦犯に恩赦を与え、帰国させた。これについてオカンポ氏は、われわれは過去に囚われずに前に進まなくてはならない、しかしそれは過去を忘れることによってではなく、過去の一部を記憶にとどめることによって実現されるべきだと力説した。またその背景には日本人の洋画家である加納莞蕾 (かんらい)が60通以上もの嘆願書をキリノ元比大統領に送ったことが大きいと、日比のつながりに言及した。

    さらにオカンポ氏は、「日比関係史の研究の多くは戦中・戦後に焦点を当てているが、戦争は長い日比関係のほんの一部に過ぎない。われわれはそのことを認識し、より長い歴史に目を向ける必要がある」と主張。17世紀にルソン島 を経て日本に渡来し、茶壺として珍重されたルソン壺 や、16世紀にフィリピン経由で来日し、キリシタン迫害によって殉教した日本二十六聖人など、18世紀以前の日比のつながりについても紹介した。