【Delve into Japanese Culture@ I-House】
桂三輝が語る、「落語」と「RAKUGO」

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  • 講師: 桂三輝(落語家)
  • 日時: 2017年6月28日(水) 7:00~8:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
  • 用語: 英語 (通訳なし)
  • 会費: 1,000円
    (学生は500円、国際文化会館会員と前日もしくは当日、国際文化会館にご宿泊の方は無料)
    2017年4月からの本シリーズの料金体系を見直し、よりご参加いただきやすくなりました。※要予約
英語で日本文化を学びたい方に向けて、英語講座を開催しています。今回はカナダ人落語家の桂三輝さんをお招きします。日本各地を始め、英語落語でワールドツアーも行っている三輝さんに、落語の楽しみ方、歴史、文化背景、英語落語などについてたっぷりお話しいただきます。講座の中で、一席ご披露いただく予定です。

桂三輝(かつら・さんしゃいん)

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カナダ・トロントにてスロヴェニア系の両親の元に生まれる。トロント大学で古典演劇を学び、劇作家・作曲家として在学中にアリストパネスの喜劇の翻訳やアダプテーション、実演などを始める。1999年に能と歌舞伎を学ぶために来日。2007年に大阪芸術大学大学院舞台芸術研究科に入学、創作落語を研究。2008年9月、六代桂文枝(当時桂三枝)に弟子入りが認められ、桂三輝と命名される。2009年にシンガポールにて英語落語で初舞台を踏み、3年の修業を経て2012年11月に上方落語界初、戦後日本初外国人落語家となる。

2014年より落語ワールドツアーを行い、これまで日本各地をはじめ、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリア、スリランカ、香港、タイ、ガーナ、セネガル、南アフリカなどで日本語と英語で落語を披露してきた。2013年に在日カナダ商工会議所文化大使に、2015年には日本スロヴェニア親善大使に就任。2017年9月には演劇の本場ロンドンの「レスター・スクエア・シアター」にて公演を予定している。桂三輝公式HPはこちら


 

レポート

戦後日本初の外国人落語家である桂三輝(かつら・さんしゃいん)氏に、落語の魅力や海外での英語落語ツアーでの経験をユーモラスにお話しいただいた。

◆古典落語の英訳の難しさ
「ワタクシ、こう見えても落語家なんです。 桂三枝改め、初代桂文枝の15番目の弟子の、 桂、三に輝くと書きまして、桂三輝です。どうもー」三輝氏の落語は、毎回このように始まる。これを英語にするとしたらどう訳せるだろう?特に「どうもー」の翻訳には骨を折りそうだ。三輝氏はこれまでいくつもの古典落語を英語に翻訳し、世界各国で披露してきた。落語をやる前には、言葉遣いや所作など落語にまつわる日本文化を解説し、日本の魅力をユーモラスに伝えている。

一番初めに日本の古典落語を英語にした時は、かなり苦労したそうだ。特にそのまま直訳しても面白さが伝わらない日本語特有の言葉遊びや、ダジャレの翻訳は難しい。また、古典落語の中に出てくる古い言葉使いも外国人にとっては難解だ。落語家デビューを果たしてから9年経つ今でも、初めて聞く時は何回か聞き直すのだと言う。

◆「親分、かたじけない!」はどう訳される?
例えば、「親分、かたじけない!」という表現の中には、親分に対する尊敬の念や感謝の念、自らを遜る謙遜する気持ちなど複雑な感情が絡み合っている。これをいざ英語にしようとすると、“Thank you, chief”のように味気ない表現になってしまいがちだ。

解説する際に、三輝氏はそうした落語の中に出てくる日本語特有の言い回しをわざと直訳する。少し不自然な英語にすることで、日本語と英語の違いや、背景にある日本文化の特徴をユーモラスに紹介することができるのだそうだ。例えば「どうぞ宜しくお願い致します」というよく使われる日本語は、敬語が何重にも重なった複雑な表現。これを英語に置き換えると、”I thank you for your kindness in advance”となり、まるで「将来のあなたの優しさへの感謝を今伝えておくよ」と言っているかのような、不自然な表現になってしまう。海外公演ではこうした表現を例に挙げ、他人を敬いながらも自らを謙遜するという日本独特の慣習や敬語という文化を伝えている。

◆落語の魅力
落語の特徴は、普遍的なユーモアにあると三輝氏は言う。海外で英語落語をやる時も、特に話の内容を変えたりすることはないというが、どうして外国人に落語の笑いが伝わるのか?それは落語の冗談の元となるのが、誰にでも理解できる「人間」の物語だからだ。例えば夫婦喧嘩や、一人が賢くて一人が愚かな二人の友人の話(愚かな友人はいつも賢いことを最後に言う)、何も盗まない泥棒・・・。いわば世界中のどこでも起こりえることを話すのが落語。笑いを理解するために事前に日本文化を知っておく必要はない。それでも落語には日本文化が散りばめられているため、噺を聞けば日本のことを知ることができてしまう。三輝氏はそれが落語の魅力の一つだと強調した。

◆時代も言葉の壁も越えるエンターテイメント
現在の東京の社会と、落語が生まれた約400年前の江戸の社会は全く異なる。その間に言語も文化も変わった。しかし落語は師匠から弟子に伝授され、老若男女に愛されながら、時間の垣根を越え、何百年も語り継がれてきた。今やそれが国の垣根も越え、東京でもニューヨークでもセネガルでも楽しまれ、さらには言語も越えて英語でもフランス語でも日本語でも楽しむことができる万国共通のエンターテイメントになりつつある。三輝氏は、「落語では宗教や政治、人種差別をネタにせず、罵り言葉も出てこない。まさに子供も一緒に家族全員で楽しめる『シンプルでイノセントなアート』なんです」と、落語の素晴らしさを熱く語った。