【新渡戸国際塾公開講演】世界との対話から見えてくる2030年の世界

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  • ※本公演は終了いたしました。
  • 講師: 平林 国彦 (UNICEF東京事務所代表)
  • 日時: 2015年6月27日(土) 1:30~3:00 pm
  • 会場: 国際文化会館 講堂
  • 用語: 日本語(通訳なし)
  • 会費: 無料

JICA専門家や国連職員として世界各地でさまざまな課題に取り組んでこられたご経験をもとに、2030年に目指すべき社会について、またそのために私たちに求められる役割について「子ども」と「医療」をキーワードにお話しいただきます。

平林 国彦 (UNICEF東京事務所代表)
写真:平林国彦医学博士。約10年間、国立国際医療センター国際医療協力局に勤務し、ボリビア、コロンビア、インド、インドネシア、ホンジュラス、ウズベキスタン、南アフリカ、ベトナムなどの病院での技術指導、保健省での政策立案支援などを担当。JICA 専門家・WHO短期コンサルタントなどを経て、2003年からUNICEF(国連児童基金)勤務。アフガニスタン、レバノン、東京事務所での勤務を経て、2008年からインド事務所副代表を務める。2010年4月より現職。

新渡戸国際塾とは

国際文化会館は日本ならびに日本人の国際的な存在感が希薄になっている現状に鑑み、次世代を担う人材育成のため「新渡戸国際塾」を開校しました。「国際性」と「リーダーシップ」をテーマに、塾生たちは、講師陣の豊かで先駆的な生き方や専門性から、多様な考え方と視点を学んでいます。第八期は期を通して「2030年の世界を考える―世界のために何ができるか」について考えます。各分野の第一線で活躍する講師陣による講演を一部公開していますので、是非ご参加ください。

レポート

心臓外科医、そして国連職員として命の現場に長年携わってきた平林氏。講演冒頭、末期がんと診断され、家族に見守られながら穏やかに息をひきとった日本人男性と、飢餓の末に亡くなった南アジアの子どもの話に触れ、「病には手の施しようがあるものとないものがある。飢えによる死は、手の施しようがあるということ。ではなぜ救える命が消えていくのだろうか」と語り、状況の改善には人々の無関心・無責任・無行動を変える必要があると訴えた。

◆医療・教育が及ぼす経済効果IMG_7690
5歳未満児の死亡者数を世界ベースで見ると、1994年の1130万人から2013年には630万人に半減している。平林氏は、20年の間に命を救うさまざまな方程式がわかってきたからだと説明する。その代表例が予防接種。子どもが重症化しやすい麻疹(はしか)の場合、1回数十円のワクチン接種が広く普及したことで、1980年の死亡者数約260万人に対して、2013年には14.5万人にまで縮小した。このほかビタミンAの供給、安全な水の確保、適切なトイレ、下痢に対する電解物質の補給、抗生物質の効果的な投与など、今ではさまざまな手段の有効性が科学的に証明されている。

教育面においても、2000年には学校に通っていなかった子どもが世界で約1億人いたが、2013年には約5800万人にまで減っている。「まだまだだが、多くの国で子どもたちが6年間のうち1~2年でも学校に通えるようになったのは大きな進歩」と平林氏。とりわけ女児が学校に通えるようになった意味は大きいという。世界175カ国のデータを集めたある調査によると、母親が教育を受けた場合、その国の経済成長がなかったとしても子供の死亡率が減るという結果が出ており、女性教育が及ぼす科学的・経済的影響が明らかになってきたからだ。新生児・乳幼児を持つ低教育の母親を指導する政策を実施すると、その後10年間でGDPが8%上昇し、また学童期の子どもの教育期間を1年間延ばすだけで、1人あたりの収入が6%増加するという調査結果も出ているという。

◆アジアで増える中間層とアフリカの台頭

こうした経済活動の活発化により、2030年の中間層は現在の2倍以上にあたる49億人に上ると予測されている。その中心がアジア(83.7%増)。しかも近年のIT技術の進展により、個人と個人がよりつながりやすくなっており、「2030年には今よりもさらに多くの交流が生まれ、世界の諸課題が個のネットワークによって解決に向かう可能性もある」。しかしその中で注視しなくてはならない課題もあると平林氏は語る。その一つが人口問題。世界中の平均余命が長くなる一方、合計特殊出生率(一人の女性が出産可能な年齢のうちに産むと予想される子どもの数)は減っていき、同時に地域的な偏りが大きくなる。2050年には生まれてくる赤ちゃんの3人に1人がアフリカ人と予想されており、2100年以降の世界では人口増に伴い、アフリカが世界の中心になる可能性もある。2030年はおそらくその予測が正しいかどうかが見えてくる年であり、グローバルパワーにおいても非OECD諸国の台頭など大きな変化が見られるだろうという。

◆2030年の世界に向けて

人口動態に加え、気候変動や水不足などの課題もある。「とりわけ水問題や食糧高騰は2030年には顕在化すると思われます。個のエンパワーメントという2030年の世界を見据え、私たちは個が一層強くなるための努力をすべきです」。その気構えとして平林氏が挙げたのが、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「協」(協力)「寛」(寛容)。先の5つは新渡戸稲造が『武士道』で唱えた教えだが、残り2つは平林氏独自の見解だ。「とりわけ日本人が持つ寛容さは、宗教にかかる紛争・暴力が絶えない今の世界において非常に重要な力だと思う」。どうすれば無関心、無責任、無行動を変え、その先にある平和を実現できるのか。次世代を担う若い人たちには、2030年に向けてそれぞれが考え、立ち上がり、実践することを期待したいと語り、講演を締めくくった。