【新渡戸国際塾公開講演】 柔道の国際化から考えるリーダーシップとチームワーク

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  • 講師: 山口 香 (ソウル五輪女子柔道銅メダリスト、筑波大学大学院体育系准教授)
  • 日時: 2016年11月26日(土) 1:30~3:00 pm
  • 会場: 国際文化会館 講堂
  • 用語: 日本語(通訳なし)
  • 会費: 無料 (要予約)

柔道創始国・日本は柔道界の世界的リーダーとしての役割を果たしてきたのか。競技力においてはYESと言えますが、200以上の国や地域において現地の人々の目線で考え、普及・発展に取り組んできたとは言い難い面があります。2020年東京五輪に向けてさまざまな問題が勃発し、日本型組織やリーダーシップに疑問を呈する人も多いなか、柔道の国際化から見えてくる、世界で求められるリーダー像について、女子柔道のパイオニアでソウル五輪メダリストの山口氏にお話しいただきます。

山口 香 (ソウル五輪女子柔道銅メダリスト、筑波大学大学院体育系准教授)
写真=山口香1964 年生まれ。小学校1年生で柔道を始め、4年生のときから男子に混じって試合に出場。1978年、第1回全日本女子体重別選手権大会(50㎏級)にて最年少 (当時13歳)で優勝。以後、同大会10連覇(第3回以降は52㎏級)。世界選手権では、4個の銀メダルを獲得したほか、1984年第3回大会で、日本女子として初の金メダルを獲得。1988年、ソウルオリンピックでは銅メダル。翌年に現役を引退後、筑波大学女子柔道部監督、全日本柔道連盟女子強化コーチとして後進を指導。シドニー五輪、アテネ五輪と2大会連続して日本チームのコーチを務めた。現在は、筑波大学大学院にて教鞭をとるかたわら、スポーツ庁参与、JOC理事などとして柔道のみならずスポーツ全般の普及発展に努めている。主著に『女子柔道の歴史と課題』(日本武道館、2012年)、『日本柔道の論点』(イースト・プレス、2013年)、『残念なメダリスト』(中央公論新社、2015年)がある。

新渡戸国際塾とは

国際文化会館は日本ならびに日本人の国際的な存在感が希薄になっている現状に鑑み、次世代を担う人材育成のため「新渡戸国際塾」を開校しました。「国際性」と「リーダーシップ」をテーマに、塾生たちは、講師陣の豊かで先駆的な生き方や専門性から、多様な考え方と視点を学んでいます。第九期は期を通して「2030年の世界―新しい社会への挑戦」について考えます。各分野の第一線で活躍する講師陣による講演を一部公開していますので、是非ご参加ください。

レポート

現在はオリンピック選手の指導にもあたる“女三四郎”こと山口香氏。今や国際競技となった日本の柔道について、大きな危機感を持っているという。「オリンピックとなるとどうしても勝ちにこだわり、金メダルを期待してしまいます。柔道は勝負事ですが、講道館柔道の創始者・嘉納治五郎先生の提唱した柔道の意義や精神をいかに海外の人たちに伝えていくのかは、日本の柔道家にとって非常に重責な課題です」本講演では嘉納の教えを振り返りながら、リーダーシップとチームワークの観点においてその教えから何を学ぶことができるかを述懐した。

嘉納治五郎(1860~1938)とは、相手を倒すことを目的とした柔術を、術を手段とする人間教育を目指す「柔道」としてまとめた人物。柔道の国際化や発展を柔軟に考え、早くから外国人や女性を入門させ、柔道の体系化にも貢献した。そうした嘉納の尽力によって、柔道は1964年の東京オリンピックで正式種目となり、現在は約200の国と地域が国際柔道連盟に加盟している。

しかし、そうした嘉納の進歩的な考え方を日本の柔道界は引き継げずにいると山口氏は指摘する。嘉納の逝去後の1948年、イギリス、イタリア、スイス、オランダの四カ国が、国同士が連携して柔道を発展させる目的で欧州柔道連盟 を結成。1951年には、日本も含めた国際柔道連盟という世界的な組織にしようという声が挙がり、日本は招待状を受けるも時期尚早だと派遣を見送った。しかし結局、国際柔道連盟 設立の翌年に加盟。日本は同連盟の創設メンバーではないということもあり、国際柔道連盟でより強い力を持っているのは未だに欧州なのだそうだ。

また1997年にはフェアプレーの向上を目指し、ブルーの柔道着が導入されたが、日本は最後まで嘉納の作った伝統を壊すのは許せないと反対。皆で話し合い、柔道をより良くすることこそがチームワークであるし、嘉納が示したリーダーシップはより柔軟なものだったにもかかわらず、これまで多くの日本の柔道家たちは形式上の“教え”を守ろうとするあまり、その“精神”を継承できずにいる。日本が国際柔道連盟の中で後れをとった理由の一つはそこにあるのではないか、との見解を山口氏は述べた。

チームワークとは同じ考えや価値観を持つ人間同士ではなく、違う考えや価値観を持つ人間同士が同じ目標や、目的に向かって力を合わせることだと山口氏は言う。そしてそれぞれの違いを踏まえた上で分かり合うための手段として、スポーツや言語、芸術があると主張する。現在柔道には日本、ロシア、フランスなど、各国の武術の基礎を柔道に応用したスタイルがあるが、違うからこそ面白い。そうした違いを尊重して価値を見出す必要があると述べた。

最後に山口氏は、日本柔道界が日本選手の勝利を目指すのは当然で、それも一つのリーダーシップだが、嘉納の理念が受け継がれていくように、柔道創始国として各国の柔道愛好家と連携していけるようなリーダーシップを発揮することが重要だと力説した。

(本講演の内容は、2017年夏に発行予定の新渡戸国際塾講義録に収録予定です。詳細はこちらをご覧ください)