【IHJアーティスト・フォーラム】アーティスト・トーク
わたしも書ける?—子供に伝える詩の魅力

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  • 2018年5月17日(木)7:00 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
  • アーティスト: ローレル・ナカニシ (作家、日米芸術家交換プログラムフェロー)
  • 用語: 英語 (日本語字幕/逐次通訳付き)
  • 共催: 日米友好基金 (JUSFC)
  • 会費: 無料 (要予約)

ハワイを拠点に活躍するライターのローレル・ナカニシが、米国やニカラグアの学校で行ってきた、児童詩教育についてお話しします。子供たちが詩作を通していかに成長するか、さまざまなエピソードや調査例をまじえ、詩の教え方や生徒たちの作品も紹介いたします。最後には実際に詩を共作する簡単なエクササイズも行います。


Photographs are courtesy of the artist.

 

レポート

子供の学びや社会的成長などに大きな影響を持つ芸術教育。中でも詩は、米国の芸術教育において、演劇や美術、音楽やダンス同様、重要な役割を果たしてきた。ハワイを拠点に活動し、日米芸術家交換プログラムで来日した作家のローレル・ナカニシ氏に、児童詩教育についてお話しいただいた。講演後は会場参加型のエクザサイズも行われた。

◆詩が生徒に与える好影響とは

大学院で詩やライティングに関する修士号を取得し、米国やニカラグアで数々の詩に関する教育プログラムを立ち上げてきたローレル氏。詩の児童教育に長年携わった経験から、ローレル氏は詩が生徒に及ぼす良い影響を実感している。勤務していた学校の先生や校長先生からは「詩の授業のおかげで生徒のモチベーションが上がった」「詩の授業の後は生徒の集中力や自己表現意欲も上がる」「詩の授業は生徒の自信と自尊心を構築する手段だ」といった言葉が寄せられたという。実際、過去30年にわたる調査研究によると、芸術教育は学業成績、社会性、健康面に良い影響があることがわかっている。詩によって養われた社会性ある生活態度や行動が、教室内や学校、ひいては共同体における積極性にもつながるとローレル氏は言う。

◆詩の正解は無限にある

物事に対する感じ方は人それぞれ、表現の仕方も人それぞれだ。しかし、この事実に戸惑う生徒も多い。生徒は多くの場合、一つの正解を探すような授業に慣れきっており、無数の潜在的正解が存在する詩の授業において、自分の考えや非現実的な空想を表現する自由に最初は戸惑ってしまうとローレル氏。それらを言葉にするのに数週間かかる生徒もいたそうだ。しかし、言葉で表現することに慣れると書きたい物語や経験があふれ出るようになり、学期末までには自信を持って、自分の作品を誇れるようになった。そして、この自信やモチベーションが、ほかの学業や社会的行動にも良い影響を与えるようになったという。こういった恩恵を生徒に与えるためには指導にも技術が必要だと説くローレル氏は、ハーバード大学「プロジェクト・ゼロ」による、芸術教育の質を担保するための7つの効果的な実践法を踏まえ、オリジナルの詩の教育法を考案。その主眼は生徒の創造性や書くことの喜び、「詩で自分を自由に表現したい」という気持ちを引き出すことにあり、生徒の「創造的な声」を培うことが大切であると強調した。

◆自分の内なる「子ども」を表現しよう!

講演後の会場参加型エクササイズでは、詩の朗読や執筆、そしてローレル氏が詩人に欠かせないスキルであるという「観察眼」「五感」「想像力」を磨くクイズが行われた。詩の朗読では庭をテーマにした短い詩を取り上げた。まずは目を閉じて、自分が植物や野菜を植えた庭にいることをイメージ。身ぶり手ぶりを交えて体全体で朗読し、参加者は詩の持つリズムやダイナミズムを全身で感じた。詩の執筆では隠喩を使ってイメージを文字にする方法を探った。ローレル氏が掲げた、どんなにとっぴなイメージでも「間違いはない」と、無限の選択肢の中から「選ばなければならない」という二つのルールに基づき、五感と想像力を使って三つの色を隠喩で表現するエクササイズが行われた。ローレル氏が投げかけた「赤を音にしたら」「黄色が匂いだったら」「青が連れて行く場所とは」のテーマに、会場は真剣に筆を走らせていた。答えは各色の付箋に書き、ホワイトボードに添付して、エクササイズ後はさまざまな表現を皆で共有。まるでボード上に一つのコラボレーションポエムができあがったようだった。