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【パネル・ディスカッション】 2020年の文化外交


  • 日時: 2014年7月1日(火) 6:30~8:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
  • 共催: 公益財団法人渋沢栄一記念財団、公益財団法人日仏会館
  • 協力: アンスティチュ・フランセ日本/フランス大使館
  • 用語: フランス語/日本語 (同時通訳つき)
  • 会費: 無料
  • 定員: 200名 (要予約) 

国際情勢が激しく変化する中、文化外交の果たす役割が世界的に改めて注目されています。コミュニケーション・スタイルが変容し、かつ文化外交の担い手も多様化する世界において、今後の文化外交を考える上での要諦は何か。そして東京オリンピック・パラリンピックを6年後に控えた日本の可能性と課題は?日仏文化協力90周年を記念して、日本とフランスの専門家と実務家が議論します。

パネリスト: パスカル・ボニファス/IRIS国際関係戦略研究所所長
  ミシェル・フーシェ/フランス国立高等師範学校教授
  斎木尚子/外務省国際文化交流審議官
  ジャック・トゥボン/元フランス文化・フランコフォニー大臣 (来日中止)
モデレーター: 渡辺 靖/慶應義塾大学SFC教授

プログラム・レポート

◆はじめに

「文化」による外交は、先進国だけでなく、新興国でも近年、力を入れている分野である。軍事力、経済力だけでは国際政治は動かなくなっており、課題を設定する力、規範をつくる力といった新しい力が求められている。その際に、その国や社会に対しての親近感、信頼感をいかに生み出すかということが非常に重要になっている。
モデレーターを務める慶應義塾大学教授の渡辺靖氏が、文化外交の今日的意義についてこのように述べたうえで、文化外交を推進するにあたり議論される問題点を指摘し、パネリストに見解を求めた。

◆外交における文化やスポーツの果たす役割

文化地政学の専門家で、外交官として世界各国に赴任した経歴をもつミシェル・フーシェ氏が、まず歴史的に見たフランス政府と文化の関係を紹介した。フランスの文化省が誕生したのは戦後のことであり、アンドレ・マルローが初代文化相を務めた。当時のドゴール大統領はレジスタンス活動に文化人を登用し、演劇、映画、建築、パリの改造などに予算を拠出した。その後ミッテラン大統領時代には、ルーブル美術館のピラミッドなどの文化施設の建築などを積極的に支援してきた。以降、国家予算の1%以上が文化支援に費やされていると説明した。

外務省の国際文化交流審議官の斎木尚子氏は、文化の力を痛感した経験として、東日本大震災を挙げた。混乱のなかでも忍耐強く、他者に対して思いやりをもつ日本人の心のありかたが海外で高く評価されて、各国から多くの支援の手が差し伸べられた。斎木氏は、これこそが日本の文化として世界に誇るべきものと主張した。

写真:2020年の文化外交(会場)

スポーツ外交に造詣が深く、サッカーと国際関係に関する著作もあるパスカル・ボニファス氏は、外交におけるスポーツの役割について述べた。氏は、多くのシンポジウムに参加するため五大陸すべてを訪問してきたが、どこへ行ってもフランスのサッカーチームという共通の話題のおかげで話が弾み、より円滑に本題に入ることができたという。国際問題で一国に力が集中すると、他国の反感を招いてしまうが、スポーツの世界で支配的地位にあることは敬愛や評価の対象となる。ジャマイカの大統領は知らなくても、世界中の誰もが、ウサイン・ボルトのことを知っている。2002年、アジア初のワールドカップを韓国と日本が共同開催した際、歴史的な問題を乗り越えて、成功のために協力し合い、結果としてお互いを知り合うよい機会となった。無論スポーツがすべての関係を帳消しにすることはできない。しかしスポーツ外交はひとつのツールであり、その使い方は知っておくべきであると強調した。

◆文化を国家の道具にすることの是非

本来は、民間や個人にゆだねるべき文化活動に、国家が介入することの是非について、パネリスト全員が、国家はあくまでも文化の交流を後押しする役割を果たすだけであり、実際の中身について口をはさむべきではないという点で一致した。特にフーシェ氏は、国家が文化の中身に介入するとすればそれは検閲であると述べ、表現の自由こそが文化を豊かにするものであり、いかなる場合でも検閲はあってはならないとした。また、国家は予算の配分の方法を工夫することで文化の浸透に集中効果を生み出すことができる。その意味で、国家はある種のイノベーション力を有すると分析した。

さらに、文化のなかで例外的にすべてを市場に任せてしまうと、問題が起きる分野もあると付け加え、それは言語であるとした。フーシェ氏によれば、フランス語を生活や仕事のなかで日常的に使用しているという国が世界で36カ国あるという。フランス語は、主語を重要視し、主語の後にすぐに述語がくるという明晰さが特徴であり、『われ、思う』のように二語目ですべてが分かる構造になっている。つまり言語とは単なる記号ではなく、各国語が独自の構造をもち、それ自体が思想であり、文化である。よって言語の背景にある考え方自体を保護する必要があり、それは文化に対して国家や公権力が責任を負うべき、唯一ともいえる分野であると述べた。

◆文化外交とパワーポリティクスの異同

世界のなかには文化を、自国の覇権を拡大する道具として利用している国がある。そのため、文化外交とは、「武器」を「文化」に置き換えただけのパワーポリティクスの延長に過ぎないのではという議論を、モデレーターの渡辺氏が提起した。

それに対して斎木氏は、本来、民主主義、法の支配、人権の尊重といった重要な価値観の素晴らしさを伝えることがソフトパワーの力であると、あらためて唱えた。他国の悪いイメージ、それどころか不正確なイメージを広めようとするキャンペーンを行う国があることは事実だが、それは本来われわれが議論している文化外交ではない。よって「文化」を「武器」に置き換えただけの覇権競争という批判は当てはまらないとした。

ボニファス氏は、スポーツは国を代表して戦うことが多く、それによってナショナリズムが高まると考えがちだが、実際に起きていることはその反対だとした。1970年ワールドカップの予選で、ホンジュラスとエルサルバドルが対戦したことがきっかけで、その後実際の戦争が起きたことはある。ただ暴力はスポーツにおいて極めて例外的であり、ドイツの著名な社会学者のノルベルト・エリアスがいうように、スポーツという象徴的で調整された分野での対立によって、実際の国同士の対立を和らげることができるとする。

世界各国の影響力をマッピングするというプロジェクトに参画しているフーシェ氏は、国のイメージは戦略的に構築すべきだが、同時に非常にもろいものであると警鐘を鳴らした。オバマ大統領が、一期目にプラハ、カイロ、インドネシアなど世界各地で素晴らしいスピーチを行ってきたことを例に挙げ、大統領の対外政策として、それまでにアメリカについてまわったマイナスのイメージを払しょくすることがあったと指摘した。また昨今のロシアのウクライナに対するプロパガンダ戦争についても触れ、ある国の悪いイメージは、その国の行動や影響力を奪うことになり、これは文化を超える大きな問題であると述べた。そして国の栄光のすべてがイメージに依存するものではないが、気を付けなければならないことも事実ではあると強調した。

◆文化外交の成果はいかに評価すべきか。

ボニファス、フーシェの各氏は、文化やスポーツによる外交活動は、短期的な成果で評価できるものではないと口をそろえた。斎木氏もまた、文化外交はその効果を計ることが、最も困難な分野であることを認めたうえで、ただ効果がないといって交流をやめてしまうと、将来ボディーブローのように効いてくる。つまり文化外交には、長い年月を経て地道に続けてこそ、得られる成果というものがあると強調した。また、外交の世界で経済、軍事力といった従来のハードパワーはなくならないが、同時に文化のようなソフトパワーも必要不可欠となっている。例えるなら両者は車の両輪であり、両方あってこそ前に進めるものであると述べた。

文化や文化を通した相互理解というのは、領域の取り合いといったゼロサムゲームではない。つまりある国への理解が深まると他の国への理解が失われるものではなく、むしろウィンウィンの関係であると斎木氏は述べ、相互依存が高まっている現代において、互いに理解を深めることこそが、文化外交の果たし得る大きな役割であると議論を締めくくった。

パネリスト

略歴:パスカル・ボニファス

写真:パスカル・ボニファス国際関係戦略研究所(IRIS)所長。専門は国際関係論、国際安全保障、スポーツ外交。パリ第8大学ヨーロッパ研究所教授、サッカー協会の事務局長などもつとめる。国際関係、核抑止と軍縮、ヨーロッパの安全保障、フランス外交、国際関係におけるスポーツなどのテーマで、40冊以上の本を執筆。近著にJO Politiques (オリンピックの政治)。

略歴:ミシェル・フーシェ

写真:ミッシェル・フーシェ地理学者。アフリカ連合平和安全保障委員会理事。世界を地政学的に分析した勢力図をこれまでいくつか執筆しており、最新著はフランスの世界における影響外交に関するもの(Atlas de l’influence de la France au XXIe siècle)。パリの高等師範学校(ENS)、パリ政治学院、フランス国立行政学院(ENA)などで教べんをとったほか、国立高等防衛研究所(IHEDN)研究員も務めた。駐ラトビア大使やヴェドリーヌ元外相の顧問を歴任するなど、外交官としても活躍。専門は文化外交政策、国境問題。

略歴:斎木尚子

写真:齋木尚子外務省国際文化交流審議官。東京大学法学部卒業後、外務省入省。総合外交政策局国際平和協力室長、北米局北米第二課長、条約局法規課長、大臣官房会計課長、外務省大臣官房参事官(報道・広報担当)兼広報文化交流部などを経て、2013年より現職。その他、慶應義塾大学総合政策学部教授、並びに東京大学(公共政策大学院)及び京都大学客員教授、日本国際問題研究所副所長兼主任研究員として、教職や研究職も歴任。2014年7月4日より外務省経済局長に就任。

略歴:ジャック・トゥボン

元フランス文化・フランコフォニー大臣。国立移民歴史博物館運営審議会議長。1976年国民議会議員に当選して以降、パリ市長であったジャック・シラクの下で助役兼パリ13区長など、要職を歴任した。1993年には文化大臣、1995年には司法大臣に就任。文化相時代には、「トゥーボン法」の名称で知られる、フランス語の使用に関する法律を制定した。そのほか、欧州議会議員としての経歴も持つ。

※諸般の事情により、来日がキャンセルとなりました。