【新渡戸リーダーシップ・プログラム公開講演】
自ら未来をデザインし、実現する―目指すは宇宙の掃除屋

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  • 講師: 岡田 光信 (アストロスケール創業者/CEO)
  • 日時: 2019年11月30日(土) 1:30~2:50 pm (開場 1:00 pm)
  • 会場: 国際文化会館 講堂
  • 用語: 日本語(通訳なし)
  • 参加費: 無料 (要予約)
  • 助成: 一般財団法人MRAハウス、公益財団法人渋沢栄一記念財団

役目を終えた人工衛星や、ロケットなどから落ちた金属片などの宇宙ゴミ(スペースデブリ)は、秒速7~8キロの速さで宇宙空間を漂い続け、運用中の人工衛星や宇宙飛行士たちにとって深刻な脅威となっています。岡田氏はこのスペースデブリによる宇宙環境の悪化が、私たちの日常生活を支える通信・気象・位置情報などの社会インフラに影響を与える世界共通の問題であると考え、2013年にスペースデブリ問題に取り組む初の民間企業、アストロスケールを設立しました。解決困難な宇宙規模の課題にどう立ち向かうか、岡田氏の情熱と起業家精神から学びます。

岡田 光信 (アストロスケール創業者/CEO)
1973年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。米国パデュー大学クラナート MBA修了。スペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測・除去、軌道上サービスに取り組む世界初の民間企業、Astroscale Holdings Inc. (アストロスケール)創業者兼CEO。英国王立航空協会フェロー(FRAeS)、国際宇宙連盟(IAF)委員、世界経済フォーラム(ダボス会議)宇宙評議会共同議長等を兼務。
 大蔵省(現財務省)主計局勤務後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。後にIT会社ターボリナックス社をはじめSUGAO PTE. LTD.等、IT業界で10年以上、グローバル経営者として日本、中国、インド、シンガポール等で活躍。
 高校1年生時に、NASAの宇宙飛行士訓練プログラムに参加し、「宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージを毛利衛宇宙飛行士からもらう。以来、宇宙への想いを胸に創業に至った。現在も日本を拠点に世界を飛び回る。
 米国パデュー大学の150周年祭典では、卒業生起業家として「Burton D. Morgan Entrepreneurship Award」を受賞した他、Forbes JAPANが選ぶ「日本の起業家ランキング2019」 第1位等、数々の賞を受賞。また、アストロスケール社の事業モデルは、ハーバード・ビジネス・スクールの教材として2回選出されている。
著書:『愚直に、考え抜く。』(ダイヤモンド社、2019年)

レポート

「1952年までは0個だったものが2019年には23,000個に増加、そしてこれからは加速度的に増えていく」。この数字は地球の周りを飛行機の20倍以上ものスピードで飛び回る「ゴミ」(スペースデブリ)の数だ。スペースデブリによる宇宙環境の悪化は、実は私たちの暮らしに大きな影響を与えるという。デブリ除去に取り組む世界初の宇宙ベンチャー「アストロスケール」を立ち上げた岡田氏が、その活動と挑戦を語った。

スペースデブリ問題に取り組む世界初の企業
スペースデブリとは、役目を終えた人工衛星やロケットの残骸、それらが衝突してできた破片のことで、秒速7~8kmの速さで地球を周回している。宇宙開発に取り組む国の増加や宇宙事業への民間参入などでスペースデブリが増え続け、気象衛星や通信衛星に衝突すると、明日の天気がわからない、旅先で自分がどこにいるかわからない、遠方の家族とビデオ通話することもできない、といった状況に陥る可能性がある。それにもかかわらず、デブリを除去する技術や市場、法制度がない中では、スペースデブリ問題の解決をビジネスにしようとする人はいなかった。しかしこの問題は遠い宇宙の問題ではなく、22世紀を生きる我が子の暮らしにも関わる、解決すべき世界共通の課題だと考えた岡田氏は、2013年に「アストロスケール」を立ち上げた。

スペースデブリ問題の解き方
岡田氏は、このスペースデブリ問題を解くには「技術」「ビジネスモデル」「法整備」の3つの課題の解決が必要だと考え、それらに起業という手段で同時進行的に取り組んできた。
1つ目の「技術」に関しては、デブリ除去には宇宙にあるデブリを見つける技術、それに近づく技術、回転するデブリを捕獲し大気圏に突入させて燃やす技術が必要になる。そのどれもが非常に難しい技術であるが、アストロスケールはそれらをシステムとして動かし、安定小型化することに取り組んできた。世界4カ国に拠点を置き、世界中から技術をもつ人々をリクルートしてチームをつくり、資金を集めている。
2つ目の課題である「ビジネスモデルの構築」(市場の開発)には、民間企業と政府という2つの顧客層を開拓することで解決に取り組んできた。宇宙事業に続々と参入し始めている民間企業には、デブリ化した衛星を追跡しやすくするための装置を打ち上げ前の機体に搭載するBtoBのモデルを開発する一方で、宇宙開発をリードする政府に対しては、既存のデブリに優先順位をつけて除去をすることを提案してきた。
同時に、国や学会、国際機関、宇宙業界を巻き込んでの「ルール作り」にも取り組んできた。日本政府に働きかけ続けてきた結果、2019年のG20大阪サミットでは、スペースデブリ問題に対応していくことが国際的に宣言された。

 

令和時代の起業家精神
◆課題方程式「課題=あるべき姿-現実」
課題とはあるべき姿と今の姿の差異であり、あるべき姿をどのように思い描くかで課題は変わるという岡田氏。令和時代に生きる私たちは、年功序列や既成概念にとらわれることなく、より自由な発想で自分なりにあるべき姿を考えることができると訴える。例えば交通事故で毎年4000人が亡くなっているという現実に対して、あるべき姿を「車を運転すればするほど子どもが生まれる社会」と定義してみるなど、周りに笑われるような突拍子もない発想こそが起業家には必要だと問いた。

◆実現方程式「実現=思考×実行」
考えていないことは実現できないし、行動に移さないことは実現できない。人生を最大限に生きるには、最大限考え行動することが必要だと熱弁した。さらに令和時代の今は、インターネットを通じて24時間いつでもヒト・モノ・カネ・情報にアクセスできるようになり、「できない」というのは単なる言い訳だと言い切った。岡田氏自身も、言い訳せず、頭がちぎれるほど考え、足がちぎれるまで動くことを常に心がけているという。

こうしてまだ誰も解いていない難問に取り組んできた「アストロスケール」だが、2020年にはいよいよスペースデブリ除去の実証実験が始まる。これだけ注目されているにもかかわらず、自身の描く「あるべき姿」は、「ゴミ集積場にゴミ収集車が来ても当たり前すぎて記事にならないように、宇宙ゴミの回収が『あって当たり前』のサービスになること」だという。岡田氏は宇宙環境問題のすべての原因は人間にあり、解決しなければならない人類共通の喫緊の課題であると講演をまとめた。

 

新渡戸リーダーシップ・プログラムとは

「新渡戸リーダーシップ・プログラム」は、国際文化会館が2008年度から10年間実施した人材育成プログラム「新渡戸国際塾」の後継事業です。世の中の技術革新やボーダレス化が進む中、ますます多様化・複雑化する社会の課題に取り組もうとしている学生や若手社会人が一歩を踏み出すための「場」と「機会」を提供しています。参加者たちはさまざまな分野の第一線で活躍する講師や仲間との知的格闘を通じて、革新的な視点や方法で「自ら未来をデザインし、実現する」ことを目指します。