【戦後70周年記念連続シンポジウム~共に考えるこれからの世界と日本】
第2回 「アメリカの歴史と現在から探る日米関係の基盤」

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  • 日時: 2015年12月10日(木) 2:00~5:30 pm
  • 会場: 国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール 
  • 共催: 国際文化会館、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団
  • 助成: MRAハウス、国際交流基金、東京倶楽部 (50音順)
  • 後援: 朝日新聞社
  • 用語: 日本語/英語(同時通訳あり)
  • 会費: 1,000円 (学生: 500円、国際文化会館会員: 無料)

日本は、戦後最も重要なパートナーとして、アメリカと同盟関係を築いてきましたが、その政治的伝統の深さと複雑さは十分に理解されているとは言えません。本シンポジウムでは、世界の重要な存在として、いまだに大きな力を持つアメリカの理想や課題をより深く理解するために、日米両国の識者にお話しいただきます。また、中国の台頭や新興国の隆盛、領有権をめぐって揺れる東アジアや南シナ海、不安定な中東情勢など、日米をとりまく状況が目まぐるしく変化する今、その基盤をどこにおくべきか考えます。

【基調講演】
 ロジャーズ・M・スミス(ペンシルバニア大学教授・人文科学部副学部長[社会科学担当])
 船橋 洋一(一般財団法人 日本再建イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆)
【パネリスト】
 待鳥 聡史(京都大学大学院法学研究科教授)
 古矢 旬(北海商科大学商学部教授)
【モデレーター】
 阿川 尚之(慶應義塾大学総合政策学部教授)

レポート

基調講演(各40分)に続き、パネリストおよびモデレーターよりコメント(30分)、登壇者全員によるディスカッション、モデレーターによる総括が行われた。

ここでは2つの基調講演の要旨を紹介する。(動画は基調講演の全編をご紹介)

 

◆基調講演1

最初の基調講演では、ペンシルベニア大学のロジャーズ・M・スミス教授が、現在のアメリカを理解するには、その欠点や弱さを知ることが不可欠であると述べ、植民地時代に始まり今日では衰退しつつも根強く残る民族意識の歴史を詳説した。

写真:ロジャーズ・M・スミス教授建国初期のアメリカ人は、宗教的・民族的なテーマが織り交ざった自国のアイデンティティの物語、つまりは「アメリカのヨーロッパ系のキリスト教徒は、神や自然、歴史によって、世界の中で最も優れた民族として選ばれた」という物語を自分たちに言い聞かせていた。この物語をスミス教授は“stories of peoplehood”と呼ぶ。この物語はアメリカ人に精神的支柱を与え、20世紀中旬にはその話が真実であったかのように、アメリカは世界で最も豊かで権力のある国となった。

その功績を認めながらもスミス教授は、歴史が作り出した「アメリカが常に正義であり、世界の代表である」というアメリカ人の思考傾向を「病的」と指摘。そうした伝統的な考えは、21世紀の世界の中でアメリカが建設的な役割を果たすのを妨害し、移民の増加によって宗教・民族・思想的に多様化するアメリカの内政に分裂をもたらし、国の発展を阻む原因となっていると批判した。

◆基調講演2

続いて元朝日新聞主筆の船橋洋一氏が、オイルショック以降継続的にアメリカを取材してきた経験を振り返りながら、今後のアメリカの課題となる、アジア太平洋への関与、中国経済への依存、中東諸国の脅威や石油エネルギーの安全保障に対する見解を述べ、今後の日米関係を再構築する必要性を説いた。

Photo: Dr Funabashi Yoichiアジア太平洋への関与に関しては、アメリカが撤退し、選択的でよりドライな関わり方へとシフトしていくだろうとの見解を述べた。アジア太平洋は世界で最もダイナミックな活断層であり、チャンスも人口も多いとした上で、アメリカのリバランシングを定着化させるのが、日米両国にとって望ましいだろうとした。さらには、日本とアメリカがお互いの歴史と文化をしっかりと共有、理解することが今後はより重要になると、日本のアメリカ研究、特に政策研究の向上を懇望した。

◆パネルディスカッション

講演後のパネルディスカッションでは、阿川尚之教授(慶應義塾大学)をモデレーターに、古矢旬教授(北海商科大学)と待鳥聡史教授(京都大学)を交え、現代の日本の学生のアメリカに対する関心の低下や、益々多様化するアメリカに対応するために日本政府に求められる柔軟性など、日米関係の課題と未来について討議した。

Photo: Panel discussion

ロジャーズ・M・スミス / ペンシルバニア大学教授・人文科学部副学部長[社会科学担当]
写真:ロジャーズ・M・スミス政治学者。専門は憲法、米国政治思想、現代の法・政治理論で、とりわけ市民権、人種や民族、ジェンダーの問題に関心を寄せる。主著に、アメリカの政治プロセスを“peoplehood” という概念から描いたPolitical Peoplehood (University of Chicago Press, 2015)、市民権をめぐる苦闘の歴史を描いたCivic Ideals: Conflicting Visions of Citizenship in U.S. History (Yale University Press, 1997)など。Civic Idealsは1998 年ピューリッツァー賞候補となったほか、6つの賞を受賞。また、アメリカ芸術科学アカデミーおよびアメリカ政治社会科学アカデミーのフェローにも選出されている。
船橋 洋一 / 一般財団法人 日本再建イニシアティブ理事長、元朝日新聞社主筆
写真:船橋 洋一1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年朝日新聞社入社。2007年から2010年まで同社主筆を務める。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」を設立。福島第一原発事故を独自に検証する委員会「民間事故調」を作る。2013年、危機管理をテーマにした『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(新潮社)を刊行。同年、『カウントダウン・メルトダウン』(文芸春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。 最新刊は『検証 日本の「失われた20年」』(編著、東洋経済新報社、2015年)、『湛山読本―いまこそ、自由主義、再興せよ。』(東洋経済新報社、2015年)。朝日新聞社時代にはアメリカ総局長を務め、米国に関する著書も多数。
古矢 旬 / 北海商科大学商学部教授
写真:古矢 旬1947年生まれ。東京大学大学院法学政治学専攻博士課程中退。プリンストン大学にて博士号取得。専門は、アメリカ政治外交史。北海道大学教授(1989~2007年)、東京大学大学院総合文化研究科教授(2007~2012年)、東京大学大学院総合文化研究科グローバル地域研究機構アメリカ太平洋地域研究センター所長(2008~2012年)、日本アメリカ学会会長などを歴任し、2012年より現職。著書に、『アメリカ政治外交史 第二版』(共著、東京大学出版会、2012年)など。
待鳥 聡史 / 京都大学大学院法学研究科教授
写真:待鳥 聡史1971年北九州市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程退学。博士(法学)。大阪大学助教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、京都大学助教授などを経て、2007年より現職。専門は、比較政治、アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義―アメリカ連邦議会の予算編成改革分析』(有斐閣、2003年)、『比較政治制度論』(共著、有斐閣、2008年)など。『首相政治の制度分析―現代日本政治の権力基盤形成』(千倉書房、2012年)で、第34回サントリー学芸賞受賞。最新刊は『代議制民主主義―「民意」と「政治家」を問い直す』(中公新書、2015年)。
阿川 尚之 / 慶應義塾大学総合政策学部教授

写真:阿川 尚之
 (写真:内田浩一)

1951年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部教授。慶應義塾大学法学部政治学科中退、米国ジョージタウン大学外交学部、ならびに同大学ロースクール卒業。ソニー株式会社、日米の法律事務所を経て、1999年より現職。2002年から2005年まで在米日本大使館公使(広報文化担当)。2007年から2009年まで慶應義塾大学総合政策学部長。2009年から2013年まで慶應義塾常任理事。著書に『アメリカン・ロイヤーの誕生』(中公新書、1986年)、『海の友情』(中公新書、2001年)、『憲法で読むアメリカ史(全)』(ちくま学芸文庫、 2013年)ほか。