2011年度 アイハウス・パブリック・プログラム

IHJ日本理解セミナー「現代日本の課題と展望―文化的未来を模索して」

国際文化会館は、文化的背景を異にするさまざまな人々が交差するグローバル都市・東京の中心地、六本木に拠点を置き、日本と諸外国との相互理解の増進、とりわけ、日本についての情報の発信を目的とした、さまざまなプログラムを実施してきました。こうした背景を踏まえ、今夏、当会館では、幅広く日本文化の理解を深めるための講座を実施します。

今、日本は未曾有の被害をもたらした東日本大震災を経験し、大きな岐路に立たされています。かつてより日本は、よき文化的伝統の喪失、少子高齢化、内向き志向、リーダーシップの欠如など、さまざまな問題を抱えており、この危機的状況に加え、世界は日本がこうした課題をどう克服し、次世代のための未来を描くことができるのか注目しています。本講座では、こうしたアジェンダを再考し、日本がいかにグローバル社会の中で生き残っていくかを展望する議論の場を創出します。

  • 申込みについて
  • 期間:2011年8月27日(土)10:00 am~8月28日(日)6:00 pm 1泊2日
  • 場所:国際文化会館 講堂ほか
  • 使用言語:英語(通訳なし)
  • 対象:主に、滞日経験が短い海外からの方、海外に向けて日本を紹介する必要がある方。40歳ぐらいまで。
  • 定員:約20名
  • 受講料:4万円(計5回のセミナー、2回の昼食と1回の夕食(日本の食文化についてのセミナー)、青松寺での坐禅体験および国際文化会館での宿泊(8月27日夜)を含む)

アジェンダ/スケジュール

8月27日(土)10:00 am – 9:00 pm

イントロダクション・セッション

全体モデレーター: 渡辺靖(慶應義塾大学教授)

セッション1:“Japanese Culture Lost & Found’”

アレックス・カー(作家)

セッション1では、第二次世界大戦後、失われた日本の文化について取り上げます。従来の美しい景観や古き伝統的都市が、近代化のプロセスの中で、とりわけ、大規模な公共事業の結果として被った損失について論じます。都会の生活にみられる日本の急速な発展と近代がもたらしたものを再検証し、自然との調和を保ちながら生きる地方文化や伝統を再発見する必要性について考えます。3月11日に起こった震災後に東日本が直面している深刻な課題を踏まえ、エコロジーの概念にも通じる論点を考察します。
セッション2:「内向き志向・閉鎖性」の打開

グレン・S・フクシマ(エアバス・ジャパン株式会社取締役会長)

地理的に、日本は四方を海に囲まれた「島国」と定義されます。近年では、心理的な意味での「島国」、すなわち若者が海外での出会いを通した発見や新たな知識や見方を吸収することに興味を示さなくなっていることへの深い懸念が、国内外で高まっています。加えて、日本社会の閉鎖性が「島国性」のもう一つの側面として今日なお指摘されています。これらの側面が日本の未来に影を落としていると言えます。国際社会における日本の存在感の低下を打開するためにも、この問題は重要な課題として検討されるべきではないでしょうか。
セッション3:リーダーシップについて

田中 均
(株式会社日本総合研究所国際戦略研究所理事長)

東北地方を襲った大地震と津波からの再建に向け、現在、あらゆる努力が進められていますが、この危機的状況の中で、日本の指導力の欠如が厳しく非難されています。リーダーシップ、そして、今後を展望するヴィジョンを描くことができずにいることは、国内問題のみならず、国際的な問題を扱う際にも指摘されることで、日本の将来的な方向性に疑問が投げかけられています。セッション3では、リーダーシップについて扱います。
夕食懇談: “オベントウと日本の食文化”

安藤エリザベス(食文化ジャーナリスト)

日本のオベントウには無数の種類があり、おにぎりと同様シンプルで、ハローキティのようにカワイらしく、特別にあてがわれた箱に、詩情豊か、かつ、芸術性に富んだ形で周到に用意されます。オベントウを食べることは、確固とした、愛されるべき日常行事で、日本文化とはなにかを考えるための味わい豊かな一つの方法です。

宿泊: 国際文化会館

8月28日(日) 7:30 am – 6:00 pm 禅体験プログラム@青松寺

セッション4:人口変動問題の検証

橘木俊詔(同志社大学経済学部教授)

世界最長の平均寿命を誇る一方で、低い出生率と来る超高齢化社会といった問題を抱え、今日日本が直面する最大の課題の一つは人口変動であると言えます。それは、家族構造の変化に従い、老人の孤独死、無縁社会など、さまざまな喫緊の問題と密接に関連しています。セッション4では、世界各国で共有される問題として、この人口変動について検討します。
セッション5:日本の文化的未来を模索する
”Japanese Culture: Its Characteristics and Role in 21st Century Human Civilization”

近藤誠一(文化庁長官)

セッション1から4では、日本が対処すべき重要な課題のいくつかについて、多様な角度から検討を加えました。これらの問題は日本の将来をやや悲観的に描き出すものであり、解決は容易ではないでしょう。しかし、日本が深刻な課題に直面する一方、現代美術、文学、建築、スポーツ、科学など、さまざまな分野において国内外で発揮される日本の才能には、明るい側面を見出すことができます。最後のセッションでは、文化的な側面からグローバル・コミュニティーに日本がどのように貢献できるか、その将来について考えます。
総括セッション
モデレーター:渡辺靖(慶應義塾大学教授)

講師・プロフィール

アレックス・カー : 作家。日本の伝統芸術や近代日本の開発問題から東南アジアの芸術まで幅広い東洋文化研究を専門とし、深い造詣を持つ。主な著作に、1994年に新潮学芸賞を受賞した(外国人初)『美しき日本の残像』(新潮社、1993)、『犬と鬼 知られざる日本の肖像』(講談社、2002)、『「日本ブランド」で行こう』(ウエイツ、2003)など。また、日本の美しい田舎の風景を取り戻すためのコンサルタントとして、京都やその他の地域で古民家保存に携わり、日本国内を幅広く旅しながら次世代に残すべき伝統・文化や環境保全の問題に関する講演活動を行っている。


グレン・S・フクシマ : エアバス・ジャパン(株)取締役会長。1985年に米国国務省通商代表部に入省し、日本担当部長、米国通商代表補代理(日本・中国担当)を務める。日本AT&T(株)副社長、アーサー・D・リトル(ジャパン)㈱代表取締役社長、在日米国商工会議所会頭、などを歴任。主な著書に、『2001年、日本は必ずよみがえる』(文藝春秋、1999)、『日米経済摩擦の政治学』(朝日新聞社、1992)など。


田中 均 : (株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長。専門は日米関係、アジア政策、安全保障政策。(財)日本国際交流センター シニア・フェロー。東京大学公共政策大学院特任教授。1969年外務省入省。2002年より外務審議官(政務)を務め、2005年8月退官。主な著書に、『外交の力』(日本経済新聞社、2009)、『国家と外交』(講談社、2005)など。


安藤エリザベス : 食文化ジャーナリスト。柳原料理教室にて日本料理を学び、1970年から現在に至るまで、在来日外国人を対象とする日本料理教室「A Taste of Culture(文化の味)」を主宰。数々の著書、受賞を含む。最近著に Kansha: Celebrating Japan’s Vegan and Vegetarian Traditions (Ten Speed Press, 2010)など。


橘木俊詔 : 同志社大学経済学部教授。専門は労働経済学、社会福祉、格差問題。京都大学、スタンフォード大学、OECD、LSEなど、国内外で教鞭をとる。主な著書に、『女女格差』(東洋経済新報社、2008)、『格差社会 何が問題なのか』(岩波書店、2006)、『アメリカ型不安社会でいいのか 格差・年金・失業・少子化問題への処方せん』(朝日新聞社、2006)、『家計からみる日本経済』(岩波書店、2004)など。


近藤誠一 : 文化庁長官。外務省広報文化交流部長、国際貿易・経済担当大使などを歴任し、ユネスコ日本政府代表部特命全権大使を務めた後、駐デンマーク特命全権大使を経て、2010年7月30日より現職。主な著書に、『パリ マルメゾンの森から』(かまくら春秋社、2005)、『歪められる日本イメージ(再版)』(かまくら春秋社双書、 2006)、『文化外交の最前線にて』(かまくら春秋社、2008)、『外交官のア・ラ・カルト』(かまくら春秋社、2011)など。

モデレーター

渡辺 靖: 慶應義塾大学教授。専門は文化政策、文化外交、およびアメリカ研究。ハーバード、オックスフォード、ケンブリッジ大学などで研究活動に携わる。主な著書に、『アフター・アメリカ~ボストニアンの軌跡と<文化の政治学>』(慶應義塾大学出版会、 2000)、『アメリカン・センター~アメリカの国際文化戦略』(岩波書店、2008)、『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波書店 、2010)など。

国際文化会館 2夜連続特別プログラム 「世界の原発政策を捉える」

3.11東日本大震災は、日本の原発政策の大幅な再検討を迫っています。原子力発電に対する懐疑的な反応が高まる一方、短期のエネルギー需給の問題に加えて、中長期的なエネルギー政策、環境政策にも大きな問題を提起しています。言うまでもなく、エネルギーは、経済活動の重要な基盤の一つであり、日本は、その必要とするエネルギー資源のほとんどすべてを海外に依存しています。供給の安定性の確保は、日本経済発展の基本的な前提です。また、同時に、温暖化防止対策も求められています。

本プログラムは、内外の原子力政策を専門とする方々にお話しいただき、これからの日本の原発政策について、私たち一人一人が考えるきっかけになることを願っています。

  • 主 催: (財)国際文化会館
  • 会 場: 国際文化会館
  • 参加費: 各回 1,000円(国際文化会館会員 無料)

第1回 2011年6月16日(木) 18:30-20:00
「福島原発事故の影響~原発事故に国境なし」

  • 講 師: 遠藤 哲也 (元IAEA理事会議長/元原子力委員会委員長代理)
  • モデレーター: 明石 康(国際文化会館理事長)
  • 用語: 日本語(通訳なし)
  • 会場: 講堂

第2回 2011年6月17日(金) 19:00-21:00
「世界の原発政策の動向」

  • パネリスト: 李志東(長岡技術科学大学教授)
  • パネリスト: ピエール=イヴ コルディエ (フランス大使館原子力参事官)
  • パネリスト: 鈴木達治郎 (原子力委員会委員長代理)
  • パネリスト: E. ブルース・ハワード(米国大使館 科学・環境・医療担当参事官)
  • コーディネーター: 植田和弘(京都大学教授)
  • 用語: 日本語/英語(同時通訳付き)
  • 会場: 岩崎小彌太記念ホール

「平和と文化」特別シンポジウム
アジアにいきづく、平和の文化 ~対立を超え、共に生きる基盤をつくる~

異なる人々がともに生きる新しい世紀には、人間性への相互の深い理解に立脚した、文化による平和のための基盤構築がますます重要になってきています。文化は、アジアにおいて過去に生じた、あるいは現在も継続する戦争や対立の暴力と分裂をまえにどのように対峙し、そして、新たな平和への礎をつくりだすことができるのでしょうか。

  • 会場: 岩崎小彌太記念ホール
  • 会費: 無料(要予約)
  • 用語: 日本語/英語(同時通訳付き)
  • 助成: 国際交流基金
  • 協力: 一橋大学 平和と和解の研究センター 、銕仙会、INSLA(自然科学とリベラルアーツを統合する会)、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ [AIT/エイト]、公益財団法人 東京都歴史文化財団 トーキョーワンダーサイト

シンポジウム・コーディネーター 足羽 與志子

一橋大学大学院社会学研究科教授(文化人類学/博士)、兼「平和と和解の研究センター」共同代表。ハーバード大学、コロンビア大学などにて客員研究員。平和、暴力、文化政策、価値生成などを研究。著書に『Making Religion, Making the States』(Stanford University Press)、『アメリカが語る民主主義』(ミネルヴァ書房)、『聖地スリランカ』(NHK出版)、『平和と和解の思想をたずねて』(大月書店)など。

第一回 「能が語る修羅、沖縄、そして平和」

  • 日時: 2011年2月7日(月) 2:00 – 6:00 pm

日本の伝統文化の粋である能楽は、14世紀の戦乱の世を背景に生まれ、その多くは、舞台に表れた死者の霊が語る、戦いの苦しみと人の所業の哀れを伝えてきました。この能楽の伝統の延長に、アジア太平洋戦争、特に沖縄戦を題材にした故多田富雄氏*の新作能をとらえ、能が、戦争の暴力への怒りと悲しみを、深い人間性の理解と平和への希求に昇華させる日本文化であることに光をあてます。また、能の普遍性と現代性を、そして、現代日本に息づく平和の文化の姿をみつめます。

*多田富雄(1934-2010) 世界に大きな影響を与えた免疫学者。能作者としても名高く、戦争三部作である『原爆忌』、『長崎の聖母』、『沖縄残月記』の他、『望恨歌』など現代社会における課題を題材とした作品を残す。

  • 『沖縄残月記』
    Photo: Kawakami Yoshikazu

    プログラム(予定)*変更の可能性があります。

  • 14:00 開演
    能の基本構成の説明、多田富雄氏が残した修羅能『望恨歌』、
    『原爆忌』、『長崎の聖母』の概要説明
    (山本東次郎氏による『原爆忌』間狂言の一部実演含む)
  • 15:25 休憩
  • 15:40 パネル・ディスカッション「沖縄のいまを問う能」
    スピーカー:清水寛二(能楽師)、志田房子(琉球舞踊家)、
    勝方恵子(早稲田大学教授)
    司会:足羽與志子(一橋大学教授)
    *自由討議・質疑応答
    (『沖縄残月記』の素謡の一部実演(約20分)含む)
  • 18:00 終了

『沖縄残月記』(一部素謡の実演)
昨年亡くなった大ばんば(曽祖母)に会いたいと、夜ごと泣く子を連れ、男が首里から浦添に向っている。父子はカミンチュのオンバに、大ばんばの霊を呼び出してもらう。大ばんばの霊は、生前は口にしなかった戦争のことを語り始める。わが子を目の前で亡くした様を語ることなく死んだ母の舞いの神々しさと、琉球舞踊がみどころの作品。

出演者 (『原爆忌』、『沖縄残月記』の一部素謡実演)

狂言方:山本 東次郎、シテ方:西村 高夫、谷本 健吾、大鼓:柿原 弘和、小鼓:古賀 裕己、笛:松田 弘之

スピーカー プロフィール

清水寛二 : 能楽師。1953年生まれ。故観世寿夫、故八世観世銕之丞に師事。観世流銕仙会を中心に活動。多田富雄氏作『一石仙人』、『横浜三時空』、『沖縄残月記』の演出、シテをつとめるなど意欲的な活動を続ける。重要無形文化財総合指定。

志田房子 : 1937年、那覇市生まれ。3歳より玉城盛重師に師事。重要無形文化財「琉球舞踊」保持者。国内外から招聘を受け、多くの舞台への出演ならびにプロデュース・演出・振付を行う。

勝方=稲福 恵子 : 沖縄生まれ。早稲田大学教授、同大学アジア研究機構「琉球・沖縄研究所」所長。2002 年沖縄文化協会賞受賞。主著に『沖縄学入門』(昭和堂2010年)ほか。

山本東次郎 : 1937年生まれ。大蔵流狂言方。三世東次郎の長男。1972年に四世東次郎を襲名。1998年紫綬褒章受章。重要無形文化財総合指定。(財)杉並能楽堂理事長。

第二回 「現代アジアにおけるアートと平和」

  • 日時: 2011年3月2日(水) 2:00 – 5:30 pm

植民地支配やアジア太平洋戦争後も、民族や宗教の対立、政治体制の崩壊や内戦、さらにはインドシナ戦争やアフガン戦争などの多くの争いが起こり、暴力の傷が現在も癒えないアジア。アートと社会と自己との接点を作品のなかで果敢に追求し、独自の感性をもって文化を創造するアジアのアーティストたちは、暴力や対立をどのように表現し、どのようなメッセージを込めているのでしょうか。アジアの現代アートが鋭く切り開いてみせる、文化と平和のあり方を考えます。

Dog Hole 10 Wong Hoy Cheong South China Sea Pishkun Dinh Q. Le

スピーカー プロフィール


Untitled Absent Kitchen Series
Khadim Ali

ハディム・アリ : 1978年生まれ。アフガニスタン出身の細密画家。氏の作品は、暴力と戦争の、特に子どもへの影響を反映したものが多い。神話やバーミヤンの仏像をテーマに、アフガニスタンの近・現代史の再考とヒロイズム(英雄的行為)の意味の変化について表現した作品で注目を集める。

ウォン・ホイチョン : 1960年生まれ。マレーシアの現代アート界になくてはならない存在の一人。作品は絵画や映像と多岐に渡るが、アイデンティティ、グローバル化や植民地主義に関するテーマが通底している。その多くは、事実とフィクション、過去と現在の間にあるつかみどころのなさ、そして歴史が、常に再創造されていることを思い出させるものである。

ディン・チ・レ : 1968年生まれ、ホーチミン(ベトナム)在住。1979年クメール・ルージュ侵攻から逃れるために、家族と共に渡米。ベトナム人農家のインタビューとハリウッド映画のクリップを繋げ合わせた代表作では、メディアや政治的レトリックによってつくられがちなベトナム戦争に対する一般的な理解とは別の物語を提示する。NY のMOMA での単独展覧会などで作品を発表している。


ひろしま #5 石内 都

石内都 : 1947年群馬県生まれ、横須賀育ち。初期三部作「絶唱、横須賀ストーリー」、「APARTMENT」、「連夜の街」で街の空気、気配、記憶を捉え、後に身体にのこる傷跡シリーズを撮る。1979 年、木村伊兵衛賞受賞、2005 年ヴェネツィア・ビエンナーレ日本代表。「被爆資料」にカメラを向けた「ひろしま」を撮り、原爆で断ち切られた人々の「その瞬間」以前に思いをはせ、そこに刻まれた生の痕跡を、鮮やかに蘇らせている。

後小路雅弘 : 九州大学大学院人文科学研究院教授。福岡市美術館学芸員として、アジア美術展をはじめ、「東南アジア─近代美術の誕生」展などを手掛ける。福岡アジア美術館の開設に関わり、第1、2回福岡トリエンナーレなどを手掛けた。2002年より現職。