『幸せな名建築たち』は、『建築雑誌』に2014~2017年の間に掲載されたインタビュー記事を再構成したもので、日本国内にある(あった)42の「名建築」といわれる建物が紹介されています。それらは、築年数の短いものでは30年以上、古いものでは160年以上、住宅をはじめ、学校、ホテル、駅など多岐にわたります。それぞれの建物の来歴やエピソードを読み進めていくと、建物と人とが共有してきた時間・空間がまざまざと感じられます。
本書には国際文化会館も登場します。会館本館は、多度津藩(現香川県)藩主江戸屋敷、井上馨邸、久邇宮邸、赤星鉄馬邸、岩崎小彌太邸のあった敷地に、日本建築界の巨匠、前川國男、坂倉準三、吉村順三の三氏の共同設計により1955年に完成、翌1956年に日本建築学会賞を受賞しています。庭園は岩崎小彌太がわが国屈指の京都の名造園家「植治(うえじ)」こと7代目小川治兵衛に作庭を依頼したもので、2005年10月に港区の名勝に指定されています。
このように建物・庭園ともに由緒のある会館ですが、老朽化などの事情で一時は立て替えも検討されました。しかし、保存を希望する人々の声にも後押しされ、耐震工事を含む大規模な改修が行われ、建築の外観や、庭とのバランスはほぼそのままに、2006年に保存再生工事が完了しました。現在も設立時と変わらず国際的な知的交流の場として活用されている会館もまた、幸せな名建築と言えましょう。
あとがきにも述べられているように、ぜひ読者の皆様にも、「どのような建物を未来に残したいか」思いを馳せながら読んでいただきたい1冊です。
幸せな名建築たち : 住む人・支える人に学ぶ42のつきあい方 / 日本建築学会編
丸善出版, 2018.7
[日本語棚||500]
出版社による紹介:
https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b302812.html
- 展示期間: 2022年11月1日(火)~11月30日(水)
- 展示場所: 国際文化会館 図書室