2019年度 日米芸術家交換プログラム フェロー プロフィール

ブライアン・アンダーソン Brian Anderson(工業デザイナー)

2019年6月1日~10月31日来日

Brian Andersonシカゴを拠点とし、デザインの技術を分析するSTUDIOBAを主宰。伝統と先進的技術を組み合わせ、材料ありきでデザインする重要性を研究している。化学や工芸の伝統と、素材調査の技術的可能性に関する知識をもとに、クリエイティブな生産にかかる労力と美学を探求。革新的な形状、新しい方法、ハイブリッド素材などを開発し、新しい知の形を披露してきたが、新しい可能性を想像するのと同じく、古いものに対する畏敬の念を込めた作品作りを行っている。

日本滞在中は、プロダクトの製作方法や製作に対する考え方の変遷が、いかにデザインの素材や作業、技術の役割を変えたかを調査する予定。化学、クリエイティブ・ライティング、教育などの、多様な学問的バックグラウンドのおかげで、彼のプロジェクトには形式を超える深いナラティブがそなわっている。アンダーソンは、京都工芸繊維大学のKYOTO Design Labで研究を始める予定だが、京都では、地元の職人団体とともに、日本の工芸や民芸の職人技の真髄を、CAD/CAMなどコンピューター支援製造技術を含む広い文脈で見直し、職人的なやりかたやその成果の国際化を目指している。

 同時に、地域の工芸や消滅の危機に瀕する技巧を記録する現地調査も行い、音声と映像だけでなく、開発中の3Dスキャン技術を実装し、再現可能な触感体験の一覧を作成する計画も立てている。

リー・コネル Lee Conell(作家)

2019年7月31日~12月27日来日

Lee Conellテネシー生まれの作家リー・コネルは、文化的枠組みや個人の主義・信条を超えて、心霊現象や様々な姿形で出現する幽霊なるものの本質を見つめた作品を手掛けている。受賞歴のある短編の多くは、デビュー本の『Subcortical(皮質下の)』に収録されている。コネルの散文の多くは日常の一コマを思わせるパーソナルかつユーモラスな描写に始まりながら、その鋭い観察眼によってみるみるうちに、読者を想像力豊かな世界へとひきこんでゆく。

日本滞在中は、東京と神戸を主な舞台とする次回作『The Study of Hidden Animals(未確認動物の考察)』の準備のため、古くは古典から現代まで日本の大衆文化に登場する妖怪やその他の怪物描写を調査する予定である。彼女自身は、妖怪は誰もが感じる不安やどんな文化にも共通するトラウマによって生み出されるものと考えている。

また、第二次世界大戦が、地方の記念館や日本の歴史の中で、いかに脚色されているかについても探る予定である。なかでも岐阜県にある杉原千畝記念館とそれにまつわる背景を調べる予定。ユダヤ文化や国家をまたぐユダヤ共同体はコネルのルーツであり、探究しつづけているテーマだが、彼女の作品を特徴づける重要な要素の一つである。

ロバート・ミリス Robert Millis(サウンド・アーティスト/リサーチャー)

2019年3月1日~7月31日来日

ニューヨーク出身。ミリスのメディアをまたぐ活動は超領域的と呼ぶにふさわしく、また彼が内外からアプローチを重ねる音楽との深い関係性に根ざしている。シンガーソングライターや作曲家としての作品やサブライム・フレクエンシーズ・レーベルでの作品、様々な文化圏で初期録音の音源を発掘するという音楽民族誌学への情熱など、彼の活動にはすべて相補的な関係がある。

ミリスの綿密な情報に基づいたアプローチは、彼のドキュメンタリー映画や書籍『Indian Talking Machine』に還元されている。インド音楽の調査にあたり、78rpm(SP)レコードを使ったが、音楽録音の初期の事例や再生装置は、ミリスを長年魅了し、様々な作品へと導いてきた。好評を得た著作『Victrola Favorites』もそうしてできた作品の一つである。

日本では、1902~03年に行われた東アジアの最初期の商業レコーディングについて調査する予定である。日本でのリサーチは、CDやビニールレコードなども交え、画像やテキスト、音を組み合わせたアート本にまとめようと考えている。若者の耳に古い音を聞かせるだけではなく、聞くという行為そのものについて、そして物としてのレコードをとりまく刺激的な話や設備環境についても紹介したいと思っている。

アヤ・ロドリゲス=イズミ Aya Rodriguez-Izumi(ヴィジュアル・アーティスト)

2019年6月1日~9月9日来日

ニューヨークを拠点とするアヤ・ロドリゲス=イズミは、自身に流れるキューバ/プエルトリコと沖縄の血からなる折衷的な出自に導かれ、常識にとらわれない空間を使って、幅広いメディアを組み合わせ、その場を出会いを促すステージへと変容させるプロジェクトを行っている。
その多元的な実演では、日常の儀式的な側面やそこで使われる物に焦点をあて、観客がパフォーマティブなやりとりの主導権を握るよう誘導。それによって作品は完成形となるという仕組みになっている。

フェローシップ中は、生まれ故郷の沖縄を訪ねて、地域の儀式を調査し、次回作『プロジェクト:アイスバーグ』のための資料を収集する。この作品は沖縄(作家の生誕地)とイーストハーレム(作家の米国での地元)を繋ぐものだが、タイトルの『プロジェクト:アイスバーグ』は、沖縄戦に割り当てられたコードネームに由来し、ウィリアムT.ランダルが沖縄の人々の戦中・戦後の体験を聞き集めた『Okinawa’s Tragedy: Sketches From the Last Battle of WWII(沖縄の悲劇:第二次大戦最後の戦いからのスケッチ)』からインスピレーションを受けて始まった。この本には、父ホセ・ロドリゲスが挿絵を描いている。
沖縄では、琉球の遺跡や、沖縄戦で多くの市民が犠牲になったガマ(洞窟)を訪ねる予定である。ガマは防空壕としても使われた場所だが、日米両軍の暴力によって多くの市民が命を落とした、重要な戦争遺跡の一つである。

ジェン・シュー Jen Shyu(作曲家、歌手、マルチプレーヤー、ダンサー、プロデューサー)

2019年2月19日~7月25日来日

ニューヨーク在住。台湾と東ティモール系移民の両親のもとイリノイ州に生まれる。自らのルーツや、世界の伝統音楽とダンスの熱心なリサーチ、西洋クラシック音楽で培われた基礎をもとに多岐にわたる音楽活動を行っている。幼少よりバイオリン、ピアノ、バレエを学び、のちにスタンフォード大学に進学、オペラを学び音楽学を修めた。キューバ、台湾、ブラジル、中国、韓国、東ティモール、インドネシア、日本などで、音楽やダンス、儀礼の民族誌学的リサーチを始める。自らが率いるバンドJade Tongueでは、これまでに7枚のアルバムをリリースするほか、スティーブ・コールマン、アンソニー・ブラクストン、ワダダ・レオ・スミス、ヴィジェイ・アイヤーといった著名な音楽家たちとのコラボレーションでも知られている。彼女の大胆でユニークな音楽スタイルは、バンドリーダー、コラボレーターとして、同業者や批評家、音楽業界誌でも高く評価されており、2016年度にはドリス・デューク・アーティストに選出された。

滞日中は薩摩琵琶と能の習得を深めるとともに、進行中の「風の電話」の佐々木格氏との会話を続ける予定である。「風の電話」とは佐々木氏が岩手県大槌町に、設置した電話ボックスで、2011年の東北の震災で亡くなった家族や友人に、残された人々が気持ちを伝えるメディアとなっている。これまでに作曲した『Nine Doors』をもとに、風の電話に触発された儀式的音楽ドラマ『ZERO BLOSSOMS, ZERO GRASSES(仮題)』を制作している。
 

www.jenshyu.com
Photo: Steven Schreiber


年度別日米芸術家交換プログラムフェロー
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